007 ジェームズ・ボンドの車 (ボンドカー)
ボンド映画に登場する「ボンド・カー」
原作では1930年製のベントレー・クーペと、1959年製のベントレー・マークⅡコンチネンタルに1953年4.5リッターのマークⅥのエンジンに載せ変えたつや消し灰色の車に乗っていた。
当サイトでは、私の独断と偏見で、好きなボンドカーから順番に挙げてみた。
1位 アストン・マーチンDBS 1967~1972年 (女王陛下の007)
私の中では文句無しにダントツの1位だ。
控えめなデザインながらも、流れるような曲線と、ジウジアーロやベルトーネなどのデザインをも彷彿させる品の良さ。
目立つことが大嫌いな原作のボンドも、このクルマなら乗ったかもしれない。
この「アストンマーチンDBS」は、歴代のアストンマーチンの中でもあまり注目されずにひっそりと姿を消した印象がある。その前後の「DB5」「DB6」や、「Volante」「DB7」などの印象が強すぎるのであろう。
ボンドファンからは根強い人気のある「女王陛下の007」とともに、日本ではあまり評価をされなかった悲運のクルマかもしれない。
人気のなかった理由として、当初は新型5.3ℓV8エンジンを積む予定で設計されたが間に合わず、DB6の古い4ℓ直列6気筒エンジンが搭載された。DBSはDB6よりも大型化(90kg増加)されたにもかかわらず動力性能が落ちたため、走りを重視する顧客から不評を買ってしまった。そのためDB6と比較して流通量もかなり少なかった(後にV8が追加される)。
このクルマを日本でお目にかかることはまず難しいであろう。
特に右ハンドルでこのカラーは見たことがない。
同時代の「FIAT DINOクーペ」や、日本の「117クーペ」「ルーチェ ロータリークーペ」などの美しさを兼ねた素晴らしいデザインである。特にアストンマーチンには控えめな気品と優雅さが感じられる。
「女王陛下の007」は最もボンドのクルマが公私ともに登場した映画だ。
冒頭のシーンや最後のシーンでもDBSが重要な役割を占めている。
そういえばロジャー・ムーアとトニー・カーティス主演のTVシリーズ「ダンディ2華麗な冒険」(The Persuaders!)では、ロジャー・ムーア扮するイギリス公爵のブレット・シンクレアの愛車として、イエロー(というか山吹色)のDBSが大活躍した。カーティス扮するダニーの愛車フェラーリ・ディーノ246GT(正式には「フェラーリ」ブランドではない)との競争(画像下)なども面白かった。
この「ダンディ2華麗な冒険」は日本でもヒット。何といってもダニー役の吹き替えの広川太一郎ワールドが炸裂!! 広川太一郎は後にロジャー・ムーアのボンドやコメディ映画「Mr.Boo」の吹き替えをするので興味深い。なおロジャー・ムーアのブレット役の吹き替えは有名な ささきいさお氏であった。このドラマはツタヤオンラインでレンタル可能なので是非ご覧頂きたい。
本国の放映は1971年~1972年。そう、このシリーズの撮影のためにロジャー=ボンドの登場は1973年の「死ぬのは奴らだ」までおあずけとなったのだ。ドラマのクランクインは1969年頃なので、この企画がなければ「女王陛下の007」「ダイヤモンドは永遠に」もロジャー・ムーアが演じていた可能性が高い。シリアスでユーモアが皆無な「女王陛下の007」がロジャーのボンドデビューであったら、その後のロジャーのボンド像はかなり変わっていたであろう。
このドラマ中のロジャーは髪が長くややふっくらした印象。007映画のプロデューサーのカビー・ブロッコリとハリー・サルツマンとはプライベートでポーカー仲間であり、彼らがロジャーを次期007役に推すにあたって「髪を短くして痩せたほうがいい」とアドバイスしたそうだ。当時幼かったブロッコリの娘のバーバラ(現ボンド・シリーズのプロデューサー)は、「ハンサムでかっこいいオジさんがよくポーカーをしに来る」と思っていたそうだ。
流れるようなリアのプロポーション。
ボンドのクルマには、大きな荷室スペースは不要だ。ゴルフバッグが1セット入れば十分!
日本では現在このような「大人のクーペ」は見当たらない。
強いていえば、スカイライン・クーペくらいであろうか。
ドイツには、BMW、アウディ、ベンツともに魅力的でオーソドックスな大人のクーペが存在する。
日本でクーペを出すと、なぜかシャコタン、エアロパーツつけまくりのヤンキー仕様となってしまう。
トヨタ、ホンダともにデザインが無機質で、クルマというより家電製品っぽい。
マツダ・ロードスターにハードドップで2+2シーターのクーペ仕様があれば欲しいと思う。
2006年の映画「カジノロワイヤル」の頃、ほぼ同時に名前が復活したDBS。
しかし「控えめでエレガント」な大人のクーペというより、フェラーリのようなモンスターカーになっていた。
2位 アストンマーチンV8 1972~1989年 (リビング・デイライツ)
1位がDBSならそのマイナーチェンジ版である「V8サルーン」は自動的に2位にすべりこむ。
ただ、少し不満を挙げれば、後にフォードの傘下となる匂いが既にプンプン。
そう、フェイスが完全にマスタングとなってしまっている。
ヘッドライトやグリルまわりが少し変わっただけなのだが、英国車チックな気品が薄れ、ちょっとがさつなアメリカ車のようになってしまったのが残念だ。
DBSでは小さく見せていたデザインが、威圧感が加わりかなり大きく見える。
こちらは1971年の「ダイヤモンドは永遠に」でボンドがラスベガス市内で乗り回した「マスタング」。
この頃すでにアストンマーチン社の大株主だったのか?
デザインに大きな影響を及ぼしていることが伺える。
また、カブリオレの「V8ボランテ」も映画のティモシー・ダルトンのボンドがプライベート・カーとして乗っていた。
第3位 ロータス・エスプリ ターボS2 1978~1987年(ユア・アイズ・オンリー)
イギリスが生んだライトウェイト・スポーツカーの雄、ロータス。その中でも初代エスプリは1975年に発売され、ロータスとしては高級なスーパーカー路線に転換した頃である。
もっとも初代のエスプリは、当初1.6リットルのNAエンジンを積み軽量のFRPボディで、ライトウエイトスポーツを踏襲していた。絶対スピードは遅いが運転が楽しいクルマだった。
エスプリは「私を愛したスパイ」に白いS1が、「ユア・アイズ・オンリー」には白とワインレッドのS2が登場。
私が3位に選んだのは、「ユア・アイズ・オンリー」でコルチナのスキーエリアを、2ペアの「OLIN SKIS」を積んで優雅に走っていたワインレッドのS2ターボ。FRのエスプリがスパイクタイヤで余裕で雪道を走る姿に憧れた。
イアン・フレミングの原作を読んだ方なら、ボンドは絶対にこんな目立つスーパーカーに乗るわけがないと思うであろう。
私にとってジェームズ・ボンドとの出会いはロジャー・ムーアのボンド。
コネリーやダルトン、クレイグのボンドと比較すると娯楽路線だったが、学生の私にとっては当時、彼こそボンドであった。
その後エスプリはマイナーチェンジして丸みを帯びたスタイルになり、アメリカの規制をクリアするために車高も高くなった。提携していたトヨタの「セリカXX」とリアランプを共用するなど、個性的なフォルムが薄らいでしまった。旧型は街ですれ違うと振り返るほど、エッジ効いて地面を這うような低いスタイルが特徴的であったので、個人的には残念なモデルチェンジだった。
現在、ロータスは経営難を経て、マレーシアの企業「プロトン」に買収されたが、プロトンでもロータスは赤字を垂れ流し続け、2011年に売却が決まった。 このまま中国や韓国の企業などに売却されるとブランドイメージは落ち、ブランド消滅の可能性もある。
番外編 アルファロメオGTV8 (オクトパシー)
番外編として、私が好きなクルマは、オクトパシーでボンドが乗り回した、「アルファロメオGTV8」だ。公衆電話で長話をしているオバはんから、ボンドが強奪して乗り回したものなので、純粋なボンドカーではない。
しかし、ファストバックの優雅なバックライン、丸目2灯のヘッドライトと、お洒落なデザインだ。大衆車クラスのクルマなので、そう高価でもなく、日本でも中古の流通量は多かった。
今後のボンドカーについてモノ申す
アストンマーチンのフォード保有株式の殆どが個人投資家に売却されてしまい、これでイギリスからロータス、アストンマーチン、ロールスロイス(自動車部門はBMWに売却)、ローバー(ランドローバー以外のブランドは消滅)、ジャガー(インド資本となった)、ベントレー(フォルクスワーゲン傘下)などの名門ブランドが全て消えた。
愛国心の塊であるボンドが海外のクルマを乗るのは、アメリカ人がボンド役者になるのと同じくらいにおかしい。上記の中でなんとかイギリス色が濃く残るのは「ベントレー」だけであろうか。ベントレーと言えば原作のボンドが「ミュルザンヌ」などを改造して愛用し乗っていた。現在、ボンドカーとして該当するようなモデルは「ベントレー・コンチネンタルGT」くらいであろうか。しかし、最新のアストンマーチン同様、2千万円以上するものであり、一公僕であるボンドにふさわしいかというと少し疑問が残る。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2012年3月追記
2011年に発売されたジェフリー・ディーヴァー著の『007白紙委任状』では、私の予想が大的中し、「ベントレー・コンチネンタルGT」がボンドカーになっていた。「どこからそんなカネが??」という疑問については、「両親の保険金の残りをはたいて」という設定に。う~ん、これなら文句ナシか・・・
また、南アフリカのミッションではスバル「インプレッサ」のWRC仕様と思われるものが現地で用意され活躍し、ボンドがとても気に入っている描写が何度か出てくる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
派手なカーチェイスや、秘密兵器満載のボンドカーを登場させると、どうしてもメーカーからの支援が欲しくなる。しかし、アストンマーチンDB5と最新型のアストンマーチンを登場させたピアース・ブロスナンの作品は、興行としてはまずまず成功したかもしれないが、心に残っているかというと別問題だ。
「トゥモロー・ネバー・ダイ」では露骨なまでにBMW社の車やバイクのオンパレード。
一転して「ダイ・アナザー・デイ」では完全なフォードグループのCMと化してしまっていた。つまり、アストンマーチン(V12バンキッシュ)、ボルボ、ランドローバー、フォードのセダンおよびサンダーバードと全て公開当時フォードの傘下であった車が続々と登場した。
個人的には、このあたりの内情がわかってしまうと、途端に映画のリアル感が薄れてしまう。
私が「ゴールデンアイ」以外のピアース・ブロスナンの作品がイマイチ好きになれないのは、「OMEGA(オメガ)」と「WALTHER(ワルサー)」 を含めてこのあたりのコマーシャリズムがあまりにも露骨過ぎたことだ。もっとも後のMGMの資金難&身売りと007映画中止騒動を考えたら仕方が無いことであったのかもしれないが。
ボンド映画の場合は、映画あってのスポンサーであり、スポンサーあっての映画ではない。原作のボンドの良さ、過去のボンド映画の検証をきっちりと行って、コマーシャリズムに傾倒しないように適正かつ一貫性を持ってボンドカーを登場させてほしいものである。
ボンドガールのクルマ ボンドガール・カー編
ボンド映画に登場するボンドガール達の中の数人は、実に魅力的なマイカーで私達やボンドを楽しませてくれた。
さすがに、ゴールデンアイの女スパイ、オナトップのように、フェラーリF355GTSを乗り回すような女は、日本のカタギの世界にはちょっと居そうもない。
ボンドカーとは違う魅力を少しだけ紹介したい。
ルノー5ターボ RENAULT 5 TURBO2 (ネバー・セイ・ネバー・アゲイン)
スペクターのエミリオ・ラルゴの手下で、バーバラ・カレラ扮する女殺し屋ファティマが、映画内でバイク(XJ650TURBO)に乗ったボンドに罠をしかけるために逃げ回るのがフランスのこのクルマ。
5はフランス語で「サンク」と読むので、「サンク・ターボ」と呼ばれた。
一見かわいいスタイルだが、大きく張り出したフェンダー、そして水冷4気筒で160馬力を発生する1400ccのエンジンが、何とミッドシップで配置された。もちろん乗車定員は2名。
もともとはWRC用に開発されたもので、かわいくてお洒落なモンスターじゃじゃ馬として、日本でも絶大な憧れと人気を誇った。
単なるFFのルノー5はごくノーマルなルックスと性能で、5ターボとは明確に分けられ、価格も雲泥の差があった。
フォード マーキュリー・クーガーXR-7 コンバーチブル (女王陛下の007)
冒頭のシーンで、自殺を企てるトレーシーが、山道でボンドのアストンマーチンDBSを追い越すところから映画が始まった。トレーシーを救ったボンドが、カジノでトレーシーのマーキュリー・クーガーXR-7コンバーチブルを発見し、その横に自分のDBSを停めるシーンはお洒落だった。
スイスのシルト・ホルンで繰り広げられるカーチェイスで、トレーシーが見事なハンドルさばきを披露する。その後、吹雪の中、山小屋に一晩泊まってボンドがトレーシーにプロポーズするまでの重要なシーンでこのXR-7が大活躍した。
映画「女王陛下の007」は、原作と同様に、地味で派手嫌いなボンドと自由奔放で身勝手なトレーシーの両者の特徴を、ガンメタブラウンのアストンマーチンDBSと赤のマーキュリー・クーガーXR-7コンバーチブルで見事に対比して表現されており、わざとらしくなく、実に見事な演出であった。
後の「ゴールデンアイ」の、クラシックカー「アストンマーチンDB5」と新型「フェラーリF355GTS」のカーチェイスなどは、カーマニアが過去のボンド映画のパロディとして観ればそこそこ楽しめるが、個人的には映画の演出として好きではない。
この車に関する詳しい情報がないが、エンジンは恐らくV8の7リッター。市販された車のミッションは、殆どが米国国内向けのフロア3ATであったが、トレイシーが乗っていたのは希少なマニュアル・ミッションで、しかもボンネット上にラムジェットのエアスクープがある高性能仕様であった。 現存している車体は殆どない希少車であろう。
シトロエン 2CV (Citroën ) (ユア・アイズ・オンリー)
この車の設計は1948年で実に1990年まで販売されていたので、ものすごいロングセラーということになる。
「2CV」とは「2馬力」を意味し、フランスの重量税に対するカテゴリーであった(実際の馬力はもっとある)。空冷の水冷対向2気筒で、排気量は時代によって400~600cc程度であった。
フランスおよび、日本のマニアの間では2CVのフランス語発音である「ドゥシュヴォ」と呼ばれている。
フランスでは「国民車」として大衆から長年支持された。イタリアの「フィアット500」や、ドイツのフォルクスワーゲン「ビートル」と同じような位置づけであった。
映画内ではボンドガールのメリナ(キャロル・ブーケ)が、両親の仇をとるために敵のアジトの近くに停めており、偶然ボンドと一緒に脱出を図る際にこの2CVがジャンプしたり転がり回ったりと大活躍を見せる。
フォード・サンダーバード (ダイ・アナザー・デイ)
2002年製のサンダーバードは、通称「レトロ・バーズ」と呼ばれ、レトロチックなデザインが人気を博した。ハードトップとコンバーチブルが存在する。
フォードが経営難のために、2005年にサンダーバードの販売と開発が打ち切られ、その後「サンダーバード」の新車は発表されていない。もしかすると最後のサンダーバードになる可能性もある。
映画内ではNSAの諜報員のジンクス(ハル・ベリー)が使用。